◆末梢静脈栄養法とは?
短期間(目安としては2週間以内)、口から必要なカロリーや
水分等が十分摂取できない場合に末梢の静脈を通して栄養補給
などをする方法です。
末梢静脈栄養法を意味する英語は
PPN (Peripheral Parenteral Nutrition )です。
◆末梢静脈とは?
末梢静脈とは心臓から遠いところを走っている血管で主に上肢
や下肢の静脈をさしています。
血管確保でよく選択されるのが上肢の末梢静脈になります。
上肢での血管確保が困難な場合は下肢の血管を選択します。
心臓に還ってくる血管を静脈といいます。
毛細血管から細静脈となって徐々に太くなっていきます。
心臓に近くなるほど血管は太くなります。
心臓に最も近い静脈には上大静脈と下大静脈があり、中心静脈と
呼ばれています。
◆末梢静脈カテーテルの穿刺(挿入)部位
栄養や水分補給の目的で穿刺する場合は一時的な穿刺(採血や
通常の点滴等)と異なり静脈カテーテルを挿入して留置しておきます。
留置することによりその都度穿刺する必要がなく患者さんへの
負担も軽くなります。
穿刺部位は固定しやすく体動時に、より邪魔にならない部位が
選択されます。
最初に選択される血管は前腕の血管になります。
肘正中皮静脈、橈側皮静脈、尺側皮静脈、前腕正中皮静脈などがあります。
上記が困難は場合は手背の静脈を選択する場合もあります。
上肢が困難な場合は足背の静脈が選択されるケースもあります。
◆主なメリット(中心静脈栄養法との比較)
●末梢からの血管確保の方が容易で穿刺時のリスクが低い
中心静脈の確保は医師でなければ実施できませんが、末梢静脈
の場合は熟練した看護師なら(医師の指示の下)実施できます。
穿刺時のリスクもより低くなります。
●患者さんへの負担がより小さい
末梢静脈からの方が身体的にも心理的にも負担は小さくなります。
中心静脈からの場合は心臓に近く、合併症に対する不安もより
大きく感じると思います。
◆主なデメリット(中心静脈栄養法との比較)
●中心静脈に比べて血管が細く流れる血液量も少ない
血管が細いと濃度の高い輸液を投与するにはリスクが高くなります。
静脈炎や血管痛の原因になります。
静脈炎になると血栓が生じやすくなる為、静脈の閉塞の危険
が高くなります。
血管が細い、脆い、挿入や固定が不十分だった場合は血管外
に漏れる危険もあります。
抗がん剤や血管収縮剤、強いアルカリ性薬剤などが血管外へ漏れた
場合は硬結や潰瘍、壊死を起こす危険があります。
●末梢の静脈からは充分な栄養補給が出来ない
1日に必要な栄養を補給するためには末梢の静脈からは限界があります。
静脈からの栄養補給が2週間以上続く場合は中心静脈に切り替えた方が安全。
◆末梢静脈栄養法で使用される輸液について
末梢静脈から1日に必要なカロリーを補給するには限界があります。
1日1000Cal~1200Calが限度とされています。
それ以上のカロリーを投与するには濃度を高くするか投与量を
多くする必要があります。
濃度を高くすると静脈炎や血管痛などがあれわれます。
投与量を多くすると腎臓や心臓などに負担をかけることになりす。
末梢静脈栄養法は十分な栄養補給が困難なため長期間(目安と
しては2週間以内)は実施できません。
各栄養素の濃度には限界があり、ブドウ糖液(糖質)は
10%~12%が限度とされています。
アミノ酸製剤(タンパク質)は10~12%とされています。
脂肪乳剤(脂質)の場合は浸透圧は血漿とほぼ同じです。
●末梢静脈栄養法に用いられる主な輸液の種類
静脈栄養として用いられる輸液は維持液とも呼ばれ一時的な
輸液よりカロリーの高い輸液が選択されます。
●主な輸液の商品名例
維持液
ソリタ-T3号G輸液、ソリタックスH輸液、フィジオゾール
3号輸液、フィジオ35輸液、10%EL-3号輸液、EL-3号
輸液、ソルデム3AG輸液、KNMG3号輸液 など
アミノ酸・電解質・糖
アミノフリード輸液、ツインパル輸液 など
アミノ酸・電解質・糖・ビタミン
ビーフリード輸液 など
他にもあります。
病態などにより投与される輸液や追加される薬液は異なります。
◆末梢静脈カテーテル留置に伴う主な合併症
●静脈炎
血管痛、熱感、発赤、腫脹などの症状があらわれます。
●感染
挿入部位、輸液ラインなどからの感染のリスクがあります。
●血栓
血液が逆流した場合や静脈炎を併発した場合は血栓が生じ易く
なります。
●空気塞栓
カテーテル挿入時や側注などの時に空気が血管内に入るリスク
があります。
●輸液漏れ
固定がしっかりされていない、体動が激しい、血管が細い、
脆いなどの理由で輸液が血管外へもれる場合もあります。
静脈炎の原因について
静脈炎の主な原因には感染、静脈カテーテル自体の材質や刺激
輸液の浸透圧などがあります。
ルートの維持について
輸液のたびに穿刺することを避ける為には、ルート内を詰まら
せないようにする必要があります。
そのための方法として生食ロック、ヘパロック、持続点滴があります。
生食ロック、ヘパロックは必要な輸液が投与された後は輸液
セットを外してロックしておきます。
血液が逆流して血液が凝固しない様にする為に静脈カテーテル
内に生理食塩水を充填(生食ロック)します。
以前はヘパリン生食を使用するヘパロックが主流でしたが最近では
徐々に生食ロックが増えてきているようです。
24時間持続的に補給(持続点滴)してルートを維持する場合は
患者さんへの負担は大きくなります。
濃度の高い輸液を投与する理由は?
一日に必要なカロリーを補給するには輸液が多量に必要になります。
一度に多量の輸液は投与できないため濃度を高くして適切な量
に調節する必要があります。
末梢静脈栄養法に用いられる輸液の浸透圧について
輸液による静脈炎を予防する為には、900mOsm/kg(浸透
圧比約 3)未満に抑えることが大切になります。
アミノ酸製剤やブドウ糖液を投与する場合は浸透圧が上記を
超えないように注意する必要があります。
脂肪乳剤の浸透圧は血漿とほぼ同じです。
浸透圧比は生理食塩水に対する比
血漿の浸透圧は280~300mOsm(ミリオスモル)/L (mOsm/kg)
生理食塩水とほぼ同じ
pHも注意が必要
◇参考文献
書籍
「ナース必携最新基本手技AtoZ」照林社 小学館 p132~p135
「家庭医学大百科」主婦の友社
「最新医学大辞典」医歯薬出版株式会社
インターネット
ウィキーペディアHP内
ja.wikipedia.org/wiki/点滴静脈注射
ja.wikipedia.org/wiki/輸液
CDC感染対策情報HP内
血管カテーテル関連物品の交換時期
hica.jp/cdcguideline/guide/exchange.htm
輸液製剤協議会HP内
末梢静脈栄養輸液
yueki.com/composition_search/pdf/8-.pdf
組成表検索
yueki.com/composition_search/
IVH(看護関連用語集のページサイト内)
https://www.nursenohome.com/%E6%AC%A7%E6%96%87/%EF%BD%89%EF%BD%96%EF%BD%88/